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オーストラリア生活2023.04.22

「オーストラリア生活(医療編)」#1 オーストラリア泌尿器科トレイニーになるまで

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Voila!泌尿器科専門医の竹村です。

毎日が怒涛の如く過ぎ去っていくため時間の感覚がもはやよく分からないのですが,オーストラリアに来てから早いもので2ヶ月ほどが経過しました。

現時点での所感を述べると,オーストラリアに対して一般的に抱かれる「のんびりしていて,細かいことは気にせず,誰に対してもフレンドリー」という印象は病院内にはあまり当てはまらないようです。


オーストラリア泌尿器科専門医になるまでの長〜い道のり

ここオーストラリアで一人前の泌尿器科医になるためには気が遠くなるほどの数多なる関門をクリアする必要があります。

医学部を卒業してから,1年間のインターン(研修医としてのジェネラルトレーニング)を終えた後に日本のようにすぐに泌尿器科のトレーニングは開始できず,まず1-2年間の外科レジデンシー(一般外科含む)をおこないます。

その後,泌尿器科プログラムに将来の専門医候補生として採用されるために最低でも2年間,多くの場合4-5年間もの長期間に渡って「非正規の」トレーニング期間が必要なのです。

そこから5年間の「正規の」トレーニングをみっちりと積んで,最後の2年間のどこかで筆記試験と口頭試験をクリアすることでようやく専門医を名乗ることができるのです。

ただし,この専門医試験も合格率80%前後の日本の泌尿器科専門医試験とは別次元で,昨年の合格率はなんと25%程度*という恐ろしく厳しいものです(*例年はもう少し合格率が高いようです)。

この後にすぐに常勤ポストにありつけることはよほどの強運でもない限りあり得ず,ここからさらに1-3年間程度フェローシップ(現在の私と同じポジションでのトレーニング)をおこなって,最終的にコンサルタントになる頃には医学部卒業後15年間前後,年齢にして40歳前後にして晴れて泌尿器科の常勤ポストにありつけるということです。

日本では最速で30歳そこそこでなることのできる「泌尿器科専門医」ですが,ここオーストラリアで同じ資格を得るためには10年間も多くの時間が必要であることには注意が必要です。


正規レジストラになるための選考プロセス

さて,そんな長い道のりのスタートラインに立つ「非正規」トレイニーたちは日々,

1. 多忙な手術,外来,病棟管理,オンコールという業務をこなしていう中で上司に働きぶりを認められてなるべく強力な推薦状を集め

2. 業務時間外に究業績をできるだけ高め(筆頭著者の論文が5点,第二著者の論文が3点で,最大25点まで獲得可能),

3. 機が熟したタイミングで採用試験に応募して

「正規」トレーニングプログラムに乗ることを目指しているのです。

詳細はUSANZ(オーストラリア・ニュージーランド泌尿器科学会)のホームページに譲りますが,CV(履歴書)40%,推薦状30%,インタビュー40%という点数配分で厳密な選考がおこなわれます

年度により変動するものの,オーストラリア全土で年間たったの10-12枠という限られたトレーニングプログラムの枠にありつくためにトレイニー達は日夜しのぎを削り,一方で先輩医師たちは「彼らが本当に推薦するに値する人物であるか」を批判的に吟味している側面があるのです。

必然的に同僚や学年の近い後輩までもが限られた席を争うライバルになる訳で,これが先に述べた一般的なオーストラリア人に対するおおらかなイメージとの乖離の要因ではないかと推測しております。


幸か不幸かそんな出世レースと無縁の外国人フェローである私は,レジデントやレジストラに対する批判的態度は控えめに,彼らの良いところをなるべく多くみつけて褒めるようにしております(実際に彼らが嫌な顔ひとつせずに病棟や外来の雑用をテキパキとこなしてくれているお陰で本当に助かっていますm(_ _)m)


チャンスは3回だけ

そんな高倍率な選考であれば,「機が熟したタイミングで」などと悠長なことを言わずなるべく早い段階から積極的に応募すべきではないかと考えたいところですが,ここで注意しなくてはならないのは,高倍率の試験にも関わらずこの試験にはなんとたったの3回しか挑戦権が与えられない(!)ということです。

お試し受験で貴重なカウントを1つ減らすことはできないので,とことん実力・評判を磨き上げてから応募することになるので,結果として上述のごとく泌尿器科の専門研修を開始する時点ですでに医学部卒業後7-8年(日本ではすでに専門医を取得して,大学病院に所属していたら博士号も取得しているぐらいの学年)以上が経過していることはザラなのです。

そんな長く,厳しいセレクションの末に選ばれたいわばエリート候補生のみに泌尿器科専門医への道が開かれるのです。

ここで素朴な疑問が浮かびます・・・もしも3回チャレンジしてもダメだったら??


残念ながらその時点で例外なく泌尿器科医になる道は閉ざされてしまうため,泣くなく他のやや不人気な専門科目に進路を変更したり,GP(家庭医)になる道を選んだり,ということになってしまうようです(き,厳しい・・・)。


日本の専門医制度と比較してみると・・・

これは泌尿器科に限った話ではありませんが,日本の「専門医」は欧米に比して圧倒的に数が多いです。

欧米で家庭医から専門医に紹介状を書いて貰っても(緊急性が乏しいと判断されれば)半年〜1年待ちになることもザラであることに比べれば,気軽に「専門医」へのアクセスが担保されていることは素晴らしいことではあるのですが,日本の「専門医」たちが然るべき実力を有しているかは疑問が残るところであります。

これはひとえに,集約化・効率化を重視する欧米諸国と分散化・均霑化を重視する日本の文化的価値観の違いに依拠するところであり,どちらが絶対的に正しいというものではありません。

しかし,スポーツ選手にしても外科医にしても高水準の技術を有するスペシャリストの養成のためには選択と集中が必要であるのは言うまでもなく,その点で欧米の教育システムに分があると思われます。


カルチャーショックの打開策

今でこそこれらの様々な違いをある程度客観的に説明できておりますが,最初は彼らの思考・行動パターンや文化的背景がさっぱり理解できなかったため精神的にかなり疲弊しました。

一種のカルチャーショックと思われましたが,日本国内はおろかカナダでも経験しなかった類のストレスでしたので対処法がいまいちよく分かりませんでした

そんな中,私と同じ腫瘍内科フェローシップをカナダの同じボスの元でおこない現在たまたまブリスベンで働いている友人がおり,彼が週末に食事に誘ってくれたので悩みを吐露してみました。

彼自身も元はマレーシア出身で,オーストラリアの医学部を卒業してからカナダでフェローシップをおこなったという経緯があったので外国人として私の置かれている状況を大変よく理解してくれた上で,

「それは医師としての力量や適応能力などの問題ではなくて,ひとえにお互いの理解不足が原因だから今思っていることを包み隠さずそのまま周囲の人たちに打ち明ければ良いと思うよ」

とアドバイスをくれました。

そこで早速メンターと話し合いの場を設けたところ,迅速に様々な取り計らいをしてくれ,他の上司や同僚にも情報共有をしてくれたお陰でとても働きやすい職場環境となりました

詰まるところ,バックグラウンドの異なる人間同士がお互いをよく理解するのに大切なことは積極的なコミュニケーションであることを思い知らされました。

周りに察して貰おうなどと思っても,受け身の姿勢ではまずこちらの本心に気付いて貰えない(欧米では暗黙の了解と捉えられてしまう)ので,どうしてもエネルギーは要りますが主体的に自分の考えを発信していく必要があるのです。


さてさて,そんなこんなでなんとか現地での仕事にも馴染みつつあるので,今後はオーストラリアの泌尿器科医の日常や,日本ではまず遭遇しないような驚愕のオージー患者たちについてなど,時間を見つけて記事にしていきたいと思います!

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