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「研究紹介」#4 Prognostic significance of absolute lymphocyte count in patients with metastatic renal cell carcinoma receiving first-line combination immunotherapies

Voila!泌尿器科専門医の竹村です。
この度,ESMO Asia 2023でMerit Awardをいただいた「転移性腎細胞がんにおけるリンパ球数の予後的意義」に関する論文がESMO Open(Impact Factor 7.1)より出版されました(Prognostic significance of absolute lymphocyte count in patients with metastatic renal cell carcinoma receiving first-line combination immunotherapies: results from the International Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium)。
本研究は,免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンで一次治療を受けた転移性腎細胞がんを対象とした国際多施設共同研究です。
免疫能を反映することで知られるありふれたマーカーである末梢血中リンパ球数が,現代の免疫療法の治療効果および予後予測に有用なのではないかと着想し,本研究を計画しました。
解析を進めていくと,リンパ球減少症が(従来のリスク因子を上回るほどに)非常に強力なリスク因子であることが明らかになりました。
研究結果の要約
本研究の要点は以下の4点に集約されます。
1. 転移性腎細胞がん症例において,20%(195/966)という比較的高い割合でリンパ球減少症が認められた
2. 治療開始前のリンパ球減少症は,治療抵抗性や不良な生命予後と関連した
3. 治療開始前のリンパ球減少症を有する症例のうち,42%(52/125)で治療開始後3ヶ月時点における通常リンパ球数への回復が認められた
4. 治療開始後3ヶ月時点における通常リンパ球数への回復は,治療反応性や良好な生命予後と関連した
研究結果の臨床応用性
上記結果を踏まえて,我々の日常診療はどのように変わるのでしょうか?
まずは,リンパ球減少症が案外高い割合で認められたことからは,転移性腎細胞がんが免疫応答と深く関わっており,一定の症例で免疫力が消耗している可能性が示唆されます。
つぎに,「卵が先か鶏が先か」ではありますが,全身治療の結果なんとかリンパ球減少症から回復することができた症例の腫瘍学的アウトアムが良好だったことから,日々のリンパ球数の推移を治療効果および生命予後を予測するリトマス試験紙として使用できる可能性があります。
そして,将来的には世界の誰かによって本研究の結果を異なる患者集団を用いて外部検証していただくことに加えて,詳細なリンパ球の動態の解析を企図して末梢血中のみならず腫瘍組織中のリンパ球を解析することによって,より高い信頼性を兼ね備えた正確な治療効果および生命予後の予測が可能になることが期待されます。
まとめ
これまでに好中球数/リンパ球数の比率(NLR)などの形でがんの他,COVID-19や心血管疾患など様々な病気を有する患者の予後予測因子として研究が進められてきているリンパ球数ですが,わざわざ好中球数との比率にしなくても単独因子として(経時的変化も含めて)これだけの強いリスク因子になり得たことは少々意外でもあり大変興味深いところでした。
願わくば本研究を元に競争的研究費を獲得して,分子生物学的な理解を深めていきたいところです。
日常診療から湧いてくるふとしたリサーチクエスチョンを演繹的に検証し,そこで得られた知見を臨床に還元していくことができるのは,医師・研究者ならではの醍醐味ですので,それが可能となる現在の貴重な環境に感謝しながら日々邁進していきます!!
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