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「カナダ生活(医療編)」#4 ここがヘンだよ日本人?カナダ人?
Voila!泌尿器科専門医の竹村です。
暫くブログの更新ができませんでした・・・というのも,来年のASCO GU(米国臨床腫瘍学会の泌尿器がん部門)とEAU(欧州泌尿器科学会)の演題登録と並行して,オーストラリア行きのビザの準備で各国からの各種証明書の取得に奔走していた末に,カナダの厳しい冬の気候とウイルスに屈してしまったのです。今回はそんなお話を少しだけしたいと思います。
日本=IT先進国ってイメージあるけどむしろ,ど・アナログ説
ビザ申請で必要となる書類の中で律速段階となるのは日本からの犯罪経歴証明です。
国内にいればさほどでもありませんが,それでも警視庁に赴いて指紋採取などが必要でした。
これが国外にいると,その煩雑さは数倍増です。
1. 領事館で所定の指紋台紙を入手(要予約)
2. 民間の指紋採取業者に赴いて,「インクで」指紋台紙に指紋を押捺(要予約)
3. 指紋台紙を領事館に提出(要予約)
4. 領事館から指紋台紙を日本に発送して貰う
5. 日本で処理がおこなわれ,証明書が領事館に返送されるのを待つ
6. 領事館に証明書が到着したら連絡が来るので,領事館にて受け取る(要予約)
所要時間はなんと約2ヶ月で本日ようやく受け取れました(参考:カナダの犯罪経歴証明は完全オンラインで10日ほどで送付されてきました)。
なんでこんなにも手間・時間がかかるのか,それは国外在住のためにいちいち領事館を介さなくてはならないこともそうですが,元を正せばひとえにデジタル化の遅れに他ならないでしょう。
まず,指紋採取がいまだにインク方式であること・・・これは指紋採取センターの方から聞いた話ですが,いまだにインク方式の指紋採取を続けているのは日本だけだとか。。。
諸外国では指紋採取は電子的に対応しております。空港でもよくスキャンの機械が置いてありますよね。
ご丁寧にも指紋台紙は「失敗した時用に2枚差し上げます」とのことでしたけど,スキャンならそんな心配なく何度失敗したって資源を無駄にすることなく指紋を取り直せますし,採取したデータだってオンラインで本国に秒で送信できますからいまだに日本が台紙とインクを使い続けている意味が分かりません。
国際郵便で日本に到着してから日本の警察でやっと台紙をスキャンで取り込んで,データ照合しているのだとしたらとんでもない二度手間だと思うのですが・・・。
そんなこんなで予定通りに来年2月から勤務開始できる気が全くもって致しません苦笑。
おっといけない,今回はこんな悲しい愚痴を披露したい訳ではありませんでした。
インフルエンザウイルスに倒れる
上述の書類集めの心労が祟ったのか,ふとした気の緩みがあったのか,記憶にないくらい久しぶりにインフルエンザに感染してしまいました(約1ヶ月前に勤務先でワクチン接種はしておりましたが見事に発症してしまいました・・・)。
年始にCOVIDを発症した時と比較して感じるのは,明らかにインフルエンザの方が症状が激烈&病状悪化が早かったことでした(ただし,回復も早かった)。
ふと頭痛と咽頭痛を覚えたと思ったら数時間後には悪寒を伴い,そしてあれよあれよと体温が40度超えです。
手持ちの解熱剤を4時間ごとに飲みながら朦朧とする意識の中,ゲータレード(カナダ人にとってのポカリ的存在です)を抱えて昼も夜も分からずに寝続けて回復に努めたのも実らず,一向に熱は下がりません。
頭が割れそうなくらいの頭痛に遂に心が折れ,翌日観念して救急外来(ED)へ。
この頃には普通の風邪ではなさそうだから,もしインフルエンザの診断でもついたらタミフルを貰って1日でも症状を短縮できないかと考えたのです。
結論:カナダの医療なめてました(カナダで曲がりなりにも医者やってるのにね笑)。
誤算1:EDの待機時間が広告と違いすぎる問題
以前の記事で話題にしたように,カナダのEDの待機時間は悲惨です。特に冬場は輪をかけてひどい。
そんな中,この時にネットで調べると勤務先のEDが奇跡的に待ち時間1時間とのこと!
喜び勇んで?午後8時頃からトリアージ待機列に並ぶと・・・ん?ビクとも進まないんですけど。
携帯で待ち時間を確認すると段々と伸びていく。
数時間待ってようやくトリアージ(簡単な問診とバイタルサイン)を受けて,いよいよ診察待ちになったのだけれど,ここで再び列の進行が停止。
酸素飽和度が普段に比べれば若干低下していたけど,トリアージ的には最も軽症なのは自分でも分かっているので重症患者を優先していただくのは全然構わないのですが,誰ひとり呼ばれる事なくここから3時間近く待たされることになるのです。
もう体調悪いのと眠いのとで意識が半分すっ飛んでいたのですが,ここで問題発生。
当初から私の隣で震えて泣いていた女性が途中で椅子から転げ落ちて地面から立ち上がれず,再度トリアージ室に再入場。
しかしバイタルサインなどに問題がなかったらしく,再び椅子に戻されるという過酷なスパルタ方式でした。
その一連の光景を虚な目で見つめる男がいたのですが手元をよく見ると両腕には手錠がかけられさらに両足首には足錠までかけられているではありませんか。左右を屈強な男に囲まれており,入所前の健康チェックなのか,刑務所で対応できない病気・怪我でも負ったのか定かではありませんが,毎度のことながら夜間のED情報量多すぎ笑。
で,結局診察に呼ばれたのは午前2時過ぎのことでした(1時間待ちの広告の下,6時間待ちとはこれいかに)。
誤算2:タミフルの敷居が日本と違いすぎる問題
さて,深夜なのにフレンドリーで気さくなナイスガイ(推定40代前半)が対応してくれました。
初めは「君は若いし健康だから寝てれば治るよ」的なスタンスだったのですが,医療従事者であることが分かると,「患者や同僚に移したら大変だからウイルスの検査と,肺炎のルールアウトのために胸部レントゲンも撮ろう」と突然手厚い対応になりました(医者あるある)。
結局肺炎像はなく,呼吸器ウイルス検査(インフルエンザだけでなくCOVIDやRSVなどのパネル検査)の結果は翌日まで出ないとのことで,また検査結果が出たら連絡するよ,とのことでその日は診察終了。
午前3時,雪の降りしきる氷点下10度の中,身も心も冷え切って「なんでこの国はこんなに寒いんだよ!」と意味不明にキレながら病院を後にしました。
翌日の昼前には早くも「検査結果が出たよ,インフルエンザA型。何か必要なことがあれば言ってね,それではTake care!」と昨晩の救急医からメールが。
その時点でまだ39度近い発熱中でしたし,まだ発症48時間以内だったのでタミフル内服したい旨伝えると,
「タミフル??カナダじゃ免疫不全者か,妊婦,高齢者,それから基礎疾患ある人にしか出さないよ」と衝撃の一言。
いや,おそらく彼方からしたらこちらの発言の方が衝撃だったかも知れません。なにしろその時まで知らなかったのです,私はこの事実を(全世界75%のタミフルを消費する日本人 by ITmediaビジネス)。
「健康な人がたった1日足らず症状を短くするために副作用や医療費を背負い込むだけの価値がありますか?」という深遠な医療経済学的な問いです。
老若男女問わずにインフルエンザの診断がついたら医者も患者もあまり考えずにタミフル(or類似薬),これは少なくとも私が働いてきた日本の医療現場では頻繁に見られた光景でした(日本の常識,世界の非常識)。
そこで私は今回のカナダでの経験を元に声を大にして言いたいのです。
「そのタミフル,本当に必要か?一度立ち止まって,きちんと考えたことはあるのか?」と。
ちなみにカナダでは成人の常用量である75 mg1日2回,5日間で60ドルです(米国では倍以上だとか)。
なんで知ってるかって?それは他でもない私が処方して貰ったからでーす☺︎
少しでも早く楽にしてくれたタミフル様に感謝しかありません(っておい!!・・・ちゃんちゃん)。
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