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「カナダ生活(学会編)」#3 ASCO GU 2023
Voila!泌尿器科専門医の竹村です。
この度,ASCO GU 2023にてIMDCからの演題のオーラル発表の機会をいただきました。
ASCO GU
ASCOとは世界最大の臨床腫瘍内科学会のことで,その中でも泌尿生殖器腫瘍に特化したGU(=genitourinary cancers)の分科会です。
ASCOの総会には2019年に日本癌治療学会の奨学金をいただいて参加したことがありましたが,泌尿生殖器腫瘍に関しては,前立腺癌の口頭演題が主で,尿路上皮癌や腎癌の口頭演題は1-2つほどしかなかったので,わざわざシカゴまで行くにしてはやや物足りない印象でした(当然,年度にもよると思いますが)。
一方で,今回参加したASCO GUは1日目が前立腺癌,2日目が尿路上皮癌,3日目が腎癌と泌尿生殖器腫瘍がほぼ均等に網羅されており,さらに大会場も1つだけなので「聞きたい演題が同時進行してて選ばないといけない!」といった国際学会にありがちな悩みもなく,なによりもサンフランシスコの穏やかな気候も相まって個人的には大満足な学会でした。
大会場の迫力
しかしそれは,裏を返せば全オーディエンスがオーディトリウムに集結する訳で,最終日に口頭発表を控える演者としては幾許かのプレッシャーを感じずにはいられませんでした。
しかも,私が発表させていただいたセッションは他に6名の演者がおりましたが教育セッションと銘打っているだけあってその道でよく知られた腫瘍内科医,腫瘍放射線科医,泌尿器科医,病理医たちが名を連ねておりました。
さらに,オリジナルのデータ発表はセッション内で最後に登壇する私の演題のみでした。
数千人規模で収容できる会場は続々と埋まり,独特の緊張感に包まれる中でセッションが進行していきました。
キーワードはMultidisciplinary
今回私が発表した内容は進行腎癌で全身治療開始時に脳転移を有する症例の予後因子についてでした。
ざっくり要点だけ総括すると,
・全身治療開始時の脳転移は意外と多い(12人に1人)
・全身治療は従来のTKI単剤療法よりも免疫チェックポイント阻害薬併用療法の方が優れている
・全身治療だけでなく脳転移への有効な局所治療(定位放射線照射や脳外科手術)も重要
といった内容です。
他演題でも,外科・内科・放射線科(あるいは遺伝子診療科まで)の分野を跨いで治療にあたる(=multidisciplinery approach)ことを強調している演題が目立ちましたが,特に有脳転移進行腎癌の集学的治療は現代医学の集大成と言えるかも知れません。
なお,ASCO Daily Newsに取材いただいた記事がとても上手に発表内容を纏めてくれました。
学会参加の意義
本研究の端緒はESMO2022参加時にフランスの研究グループが「腎癌脳転移症例における有効な治療法はまだエビデンスが不十分で今後の研究が必要な領域です!」と発表していたのを聞いたところにありました。
会場に持参していたMac Bookで脳転移症例に対するPreliminaryな解析をおこなった際に既に上記結果が得られたので,帰国してすぐにボスに話を持ちかけて私の臨床研究プロジェクトとして正式に承認されたという経緯がありました。
恥ずかしながら,かつての私は「ちゃんとした研究は論文として世に出るのだから学会発表なんか聞かずとも完成版の論文だけ読めば十分だし,なんだか学会場ってお偉い先生たち専用の仲良しサロンみたいであんまり行く意味を感じないなぁ」なんて考えていた時期がありました(若気の至り・・・)。
しかし,今回の経験を通じて「Unmet needを知るには国際学会ほど効率的な場はない」と感じるようになりました。
加えて,NEJMやLancetといった超一流誌の筆頭著者にしょっちゅう名を連ねているような高名な先生たちから「Congratulations!」とフランクに話しかけていただけるのは素直に嬉しいですし,来月からの勤務先であるプリンセスアレクサンドラ病院の泌尿器科医をよく知るオーストラリア人腫瘍放射線科医とも知り合えましたし,泌尿生殖器腫瘍学という狭い世界のコミュニティーの中で色んな出会いを大切にしたいと考えるようになりました。
そんなこんなで「忙しい臨床を言い訳にせず,地道に臨床研究を続けていきたい」と決意を新たにしたサンフランシスコでの数日間となりました。
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